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本橋隼人 Hayato Motohashi, PhD.

Yukawa Institute for Theoretical Physics, Kyoto University

【イリノイ州】

審査員氏名:

加藤 遼 先生(Postdoctoral Scholar, Institute for Molecular Engineering, University of Chicago)

佐井 宏聡 先生(Postdoctoral Fellow, Simpson Querrey Institute, Northwestern University)

佐野 晃之 先生(Assistant Professor, University of Illinois at Chicago, College of Medicine)

【イリノイ 受賞論文2】​

受賞者氏名:本橋隼人  研究分野:Gravity, cosmology   留学期間:3-5 years

論文リンク https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.96.063503

審査員コメント:

これまでの申請者の先行研究を活用した研究であることを高く評価した。分野の違いから、論文内容に関しての審査は非常に難しいが、コレスポンディングオーサーを務めていることは極めて珍しく高い評価へとつながった。また短い期間でcitationが47回あり、分野内では極めて重要な論文であることがうかがえた。(佐野先生)

 

暗黒物質の起源を宇宙マイクロ波放射から予想された原始ブラックホールの質量で説明するために、著者の先行研究であるインフラトン場を階層的にした広義のスローロール・インフレーションモデルを用いたという内容でした。非常に専門的な内容で、論文の学術的価値や研究分野への貢献度の評価が難しいのですが、すでに30報以上の被引用数を記録している点が印象に残りました。(佐井先生)

 

論文内容:京都大学基礎物理学研究所重力物理学研究センターの本橋隼人特任助教はシカゴ大学宇宙物理学研究所のWayne Hu教授と共同研究を行い、初期ブラックホールを生成するインフレーション模型に対して従来用いられてきたスローロール近似法が適用できないという禁止定理を証明すると同時に、本橋氏が先行研究で開発した最適化スローロール近似法が有効であることを示しました。本研究成果は2017年9月、Physical Review D誌に掲載されました。尚、本橋氏はfirst authorおよびcorresponding authorを務めました。

 初期ブラックホールは1960年代後半からホーキングなど複数の研究者により提唱された学説で、宇宙初期のインフレーションの際に生じる曲率揺らぎをタネとして形成されるブラックホールです。これは宇宙の約25%を占める暗黒物質の有力候補と目されており、重力波観測の文脈で近年さらに多くの注目を集めています。時空の微小な揺らぎである重力波の直接検出はアインシュタインの最後の宿題とされてきましたが、一般相対論の提唱から100年を経た2015年に米国のLIGOチームが史上初の重力波直接観測に成功し、2017年ノーベル物理学賞を受賞しました。歴史的発見においてしばしば見られるように、重力波直接検出も新たな謎をもたらしました。観測されたブラックホールの質量は太陽の数十倍であり、当初の予想よりも重いことが明らかとなったのです。このような重いブラックホールを自然に生成するシナリオの一つが初期ブラックホールです。従来の初期ブラックホール研究においては、インフラトン場の時間変化が緩やかであるとみなすスローロール近似法に基づいた計算が広く用いられてきました。本橋氏らは、宇宙の暗黒物質を担う初期ブラックホールを生成する単数場インフレーション模型はスローロール条件を満たすことができないという禁止定理を、非常に一般的な形で証明することに成功しました。同時に、本橋氏が先行研究で開発した最適化スローロール近似法がこのような模型に対して適用可能であることも数値計算により確認されました。

 日本のKAGRAチームも2019年内の重力波観測開始を目指しており、将来的に重力波干渉計の国際的ネットワークにより年間100回以上のブラックホールや中性子星の連星合体からの重力波観測が見込まれています。重力波天文学の時代が幕を開けブラックホールの起源が注目を集めるなかで、本橋氏らは初期ブラックホールを生成するインフレーション模型の一般的特徴を端的に明らかにし、従来の解析の再考の必要性を指摘するとともに、最適化された解析手法も確立するという研究成果を挙げました。本研究成果は宇宙論分野において新たな標準的定理として認識され、発表以降多くの継続研究がなされており、今後ますます重要な位置を占めることが期待されます。

 

受賞者コメント:

私は2013年から2016年までシカゴ大学に博士研究員として勤務しており、今回の受賞論文はその期間中の研究成果に基づいた複数本の論文のうちの最後のもので、異動後の2017年に出版されたものです。一連の研究成果がこのような評価をいただき大変嬉しく思っております。この受賞を励みにより一層面白い研究ができるように頑張りたいと思います。

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